◆政局・外交レポート(8)外交編◆2009年5月29日
●北核実験、核論議の引き金に?
北朝鮮が5月25日、2006年10月以来、二度目の核実験を行った。追加的な核実験をしないよう求めた国連安全保障理事会の制裁決議違反は明かで、日米両国などが中心となって新たな制裁決議の文言調整を進めている。
北朝鮮の再核実験は、日本の安全保障政策にどういう影響を与えるのか。その一つが、「敵基地攻撃論」の台頭だ。
自民党国防部会の防衛政策検討小委員会は5月26日、政府が年末に改定する「防衛計画の大綱」に向けた提言案をまとめ、おおむね了承された。
政府はこれまでも、海外の敵の基地を攻撃することは、政府の憲法解釈で認められた自衛の範囲内との立場をとってきた。1956年当時の鳩山内閣による「我が国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない。他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」という政府見解を維持し続けている。
麻生首相も5月28日の参院予算委員会で、こうした見解を再確認している。
ただ、憲法解釈上、可能であることと、実際にできるかと言うことは別問題で、自衛隊はこれまで、憲法9条に基づく専守防衛の観点から、敵の基地を攻撃する装備を保有してこなかった。これは、集団的自衛権は権利として保有していると考えられるが、行使することは憲法上認められないということと同じ論理と言っていい。
しかし、北朝鮮による核・ミサイル開発が進むにつれ、実際に敵の基地を攻撃できる能力を、自衛隊が持つべきだという議論は、確実に台頭している。国防部会の提言はそうした自民党内の空気の現れでもある。
提言案では、弾道ミサイルの脅威に対し、「座して死を待たない防衛政策」として、ミサイル防衛(MD)に加え、策源地(敵基地)攻撃能力の必要性を盛り込み、巡航ミサイルの導入などを挙げている。提言案は6月上旬にも提言を党として正式決定し、麻生首相に提出される見通しだ。
ただ、首相は前述の参院予算委員会で「現実の自衛隊は敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有していない。日米安保をきちんとして、日本の平和と安全を期することが基本だ」と語った。
日米安全保障条約に基づく日米安保体制では、自衛隊が盾(防衛)、米軍が矛(攻撃)という役割分担をしている。日本が矛の役割を持とうとすることは、裏返せば日米安保が機能していないことになる。敵基地攻撃能力を持つという議論自体が、日米同盟の信頼性を失わせるというジレンマにもなっている。
同様のことは、日本の核武装論にも言える。
北朝鮮の核開発を受け、日本の一部タカ派議員やマスコミの間で、日本も核武装すべきだという意見が出ている。
しかし、日本が核武装するということは、NPT(核不拡散条約)を脱退し、国際的な孤立を招くことを意味する。つまり、日本も北朝鮮になるということである。また、米国による核の抑止力「核の傘」の信頼性を失わせ、現実的ではないとして退けられてきた。
日本にとって、核問題をめぐり気になるのは、北朝鮮の核開発よりも、オバマ政権による核軍縮論議の方だ。
日本政府はこれまで、「唯一の被爆国」として15年連続して国連総会に核廃絶決議案を提出するなど、核軍縮・不拡散問題に取り組んできており、4月5日のオバマ米大統領のプラハ演説を受け、中曽根弘文外相が「世界的核軍縮のための11の指標」と銘打った日本独自の提言を発表した。
その内容は(1)核軍縮国際会議の日本開催(2)米ロ両国の第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる条約交渉の早期妥結(3)米国の包括的核実験禁止条約(CTBT)早期批准(4)北朝鮮やインド、パキスタンの核拡散防止条約(NPT)加入-などだ。
「11の指標」には、「唯一の被爆国」の願いを説得材料に、この分野をリードし、日本外交の存在感を高めようという思いがにじむ。
しかし、米国の「核の傘」に依存する日本が、核軍縮をリードできるのかという指摘もある。
オバマ政権発足後、日本政府は核の傘を維持するよう、念押しを重ねてきたという。毎日新聞によると、2月17日=クリントン国務長官訪日▽同24日=ワシントンでの日米首脳会談▽3月31日=オランダ・ハーグでの日米外相会談。4月5日のオバマ演説後は、同15日=麻生太郎首相の大統領あて親書▽同24日=日米首脳電話協議▽同27日=中曽根弘文外相の特別演説--という具合だ。
こうした日本政府の姿勢は、核武装論を抑えるためにも、核の傘の維持を訴えているようにもみえるが、核抑止力を意味する「核の傘」の維持を求める一方で、核軍縮を訴えるのは、確かに矛盾のようにみえる。
核の傘の維持と核軍縮をどう両立させるのか、日本政府は、その明確な見解は示していない。
さらに、核抑止力の維持を訴える日本の姿勢は、核軍縮に反対する米国内の保守派に利用されかねない危惧はある。
米国からの報告では、核軍縮活動家の間などで「スポイラー・ジャパン(Spoiler Japan)」という単語が広がっているという。核の傘に固執する日本の姿勢が、核軍縮に本腰を入れようとする米国をスポイルする(甘やかしてだめにする)という意味なのだという。
●ルース駐日米大使起用の波紋
オバマ米大統領が5月27日、次期駐日大使にカリフォルニア州の弁護士ジョン・ルース氏(54)を正式に指名した。上院での承認を経て、夏ごろ、シーファー前大使の後任として日本に赴任する。
ルース氏は、スタンフォード大ロースクールを卒業。大手弁護士事務所を経営し、同州シリコンバレーを拠点に、情報技術(IT)企業の合併・買収などを手がけてきた。昨年の大統領選では、オバマ氏の有力な資金提供者として貢献した。オバマ大統領はルース氏起用と同時に、金融大手シティグループの前副会長で、やはり選挙資金面で貢献したとされるルイス・サスマン氏を駐英大使に正式指名しており、ルース氏の駐日大使への起用は、資金集めへの「論功行賞」の色合いが強い。
河村建夫官房長官は5月28日の記者会見で、ルース氏起用について「日本政府として歓迎したい。オバマ大統領の信任が極めて厚い方で、今回の指名はオバマ政権の日米同盟重視の証左だ」と、大統領とのパイプへの期待感を示した。
ただ、米国の同盟国として大物大使の起用に期待を寄せていた日本政府にとって、日本とのパイプが細いルース氏起用は、期待はずれの面もある。
次期駐日米大使は当初、国務、国防総省の要職を歴任し、国際政治学者として知名度の高いジョセフ・ナイ・ハーバード大教授が有力視され、日本のマスコミも一斉に報道した。在日米軍再編や北朝鮮の核問題など難題を抱える中で、東アジア政策に詳しいナイ氏が適任との期待感があったからだ。
そうしたナイ氏に比べ、ルース氏の安全保障政策をめぐる手腕は未知数だ。近年の駐日大使は、マンスフィールド民主党上院院内総務、モンデール副大統領、フォーリー下院議長、ベーカー共和党上院院内総務ら政界の大物が起用される例が多く、ルース氏は、格落ちの感が否めない。
日本政府の不満を増幅しているのは、米国が日本よりも中国を重視しているのではないかという疑念だ。
オバマ大統領は次期駐中国大使にユタ州のジョン・ハンツマン知事を起用した。その発表は、大統領がホワイトハウスで自ら行うという力の入れようだったが、駐日大使の発表は5月27日夜、ホワイトハウス記者会に文書で事務的に連絡があっただけ。これが日本軽視との見方を増幅しているのだ。
もっとも、この発表も英国、フランス、インドなど、ほかの11人の大使と同時で、日本だけ特別な扱いだったわけではなく、むしろ、同盟国としての気安さが、簡略な発表につながったとも言えなくもない。
米大統領は共和党、民主党を問わず、大統領選での貢献者を大使に起用する傾向があり、ルース氏の大使起用も、驚くべきことではない。
ナイ氏はクリントン政権で国防次官補を務め、東アジア戦略報告をまとめるなど、ヒラリー・クリントン国務長官に近いとみられている。これが、駐日大使に起用されなかった理由の一つとする報道もあり、ルース氏起用は、対日関係を国務省ではなく、ホワイトハウス直轄とするオバマ政権の意向の表れとみることもできる。
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