« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »

2009年4月の3件の記事

2009年4月29日 (水)

◆政局・外交レポート(7)ver.2◆2009年4月30日 

●小沢は辞めるのか

 4月26日に投開票された名古屋市長選で、民主党推薦の前衆院議員、河村たかしが当選した。3月29日の千葉県知事選、4月12日の秋田県知事選で推薦・支持候補の敗北が続いていた民主党にとっては、今回の市長選勝利を、小沢一郎代表の公設秘書が政治資金規正法違反で逮捕された西松建設による違法献金事件の悪影響からの脱却につなげたいところだろう。

 ただ、これで小沢が引き続き代表を務め、そのまま衆院選に突入することができると考えるのは早計だ。

 幹事長の鳩山由紀夫は4月26日夜、市長選勝利が小沢の進退問題に与える影響について「圧勝したということで、プラスの影響は当然ある」と記者団に語ったが、河村はこれまで民主党内で「一匹オオカミ」的な存在として知られ、今回の勝利も「河村の個人人気の結果」との見方が、党内でも大勢だ。

 小沢は今回の市長選で、名古屋市入りし、選挙事務所など激励に訪れたが、街頭演説に立つことはなかった。このことは小沢と河村との微妙な距離、小沢の今置かれている現状を暗示しているようにみえる。

 党内有力者の発言をみると、鳩山は表向き、小沢と一蓮托生の立場だが、小沢の後継者と目される代表経験者の岡田克也、同じく代表経験者の前原誠司は、小沢と距離を置く発言を繰り返している。

 岡田は4月25日、熊本市内での講演で「われわれは国民が納得するだけの努力を一生懸命考えている。もう少し時間をいただきたい。理解ができていないままで、政権交代ができないことは分かっている」と強調した。

 前原も4月24日、日本外国特派員協会での講演で「小沢代表の『党代表や首相の座に未練はない。最大のテーマは政権交代可能かどうかだ』との発言を私は固く信じている。客観的に党の状況を分析し、判断することが大事だ」と述べた。

 これらの発言に共通しているのは、世論の賛同が得られないなら、代表を辞任すべきだとの考えを強くにじませている点だ。

 その世論の動向はどうだろうか。

 日本経済新聞社とテレビ東京が4月24日から26日に行った共同世論調査によると、小沢の進退について「辞任すべきだ」と答えた人が62%に達し、「続投すべきだ」の24%を大きく上回った。

 産経新聞とフジテレビが4月25、26両日に行った合同世論調査でも、「小沢代表を辞任すべきだ」との回答は56.6%で、1カ月前の前回調査よりも5.7ポイント減ったものの、依然過半数を占めている。また「麻生太郎首相は退陣し、衆院選を行うべきだ」と答えたのは23.5%にとどまっているのに対し、「小沢代表が退陣し、新代表の下で衆院選に臨むべきだ」との回答は57.3%に上っている。

 これらの調査結果は、小沢の代表続投が国民の支持を得られていないことを示している。

 また、民主党内では、かつて小沢の秘書を務めた、側近の樋高剛前衆院議員が小沢ではなく非小沢系の蓮舫参院議員と並ぶポスターを作ったことも発覚。 産経新聞によると、小沢と距離を置く中堅、ベテラン議員らが、小沢氏の辞任を求める「連判状」作成を検討するなど、小沢離れがじわじわと広がっている。

 当の小沢は4月28日の記者会見で、こうした党内の動きについて「いろんな意見があることは風の便りに聞いている」と、辞任論の存在を認めつつも、「(次期衆院選で)国民の信頼を必ず獲得できると現時点では思っている」と、代表辞任を改めて否定した。

 ただ、小沢はこれまで政権交代に政治生命をかけると明言しており、自らが身を引くことで民主党の党勢が著しく回復するような状況になった場合には、潔く身を引く可能性もある。今は、じっとその時を見定めているのかもしれない。

 次期衆院選では小沢の続投が自民党に有利になると説いている小泉純一郎元首相は4月22日、小沢の進退について「衆院解散直後に代表を辞任する。代表選をやらずに後継指名するだろう。彼の性格からして代表辞任後も影響力を残そうとするのではないか」との見通しを示している。

●首相側近4人の密談

 4月23日夜、首相官邸の敷地内に2台の自動車が裏門から滑り込んでいった。乗っていたのは安倍晋三元首相と菅義偉自民党選対副委員長。公式には、麻生はこのとき、首相公邸で甘利明行政改革担当相と会っていたことになっており、新聞各社の首相動静欄に、安倍と菅の記録はない。麻生にとって、安倍、菅との会談は、公にはできない事情があったのだろう。

 麻生とその周辺がなぜ、そこまで神経質になるのか。それは、この四人の密談が、衆院解散・総選挙の時期をめぐるものだったからに違いないと容易に推測できる。

 この会談の布石になったのが、官房長官の河村建夫が、衆院解散・総選挙の時期について「政権を一緒にやっている公明党だから、無視できないだろう」と述べた4月22日の講演だ。

 この発言は、公明党幹事長の北側一雄幹事長が4月20日、大阪市内での講演で、次期衆院選の時期について「4~6月期のGDP(国内総生産)が8月中ごろに出て、少しは経済の底打ち感が出てくるのではないか。多くの方々が底打ちを感じる時が一つのチャンスだ」と、8月中旬以降にすべきだと発言したことに呼応したものだ。

 公明党は、国政選挙並みに重視する東京都都議会議員選挙(7月12日投開票)と衆院選の時期を、少なくとも1カ月以上ずらすよう求めており、解散権者の麻生が公明党の意向を重視するなら、衆院選は6月7日以前か8月16日以降に絞られる。

 しかし、6月7日以前の衆院選は、民主党が2009年度補正予算の審議に全面的に協力して早期成立が可能になるか、民主党が補正予算審議に徹底抗戦して、成立しないまま解散に踏み切るしかできない。8月16日以降なら事実上の任期満了選挙だ。

 河村がなぜこの時期に、麻生の専権事項である衆院解散・総選挙の時期に踏み込んで発言したのかは分からない。

 安倍は麻生との密談で「補正成立後すぐの解散も視野に入れるべきだ」と、「5月解散論」を主張したという。事実上の任期満了選挙では、レームダックに陥る危険性があるとの認識からだろうが、河村発言に待ったをかける意味があったのかもしれない。

 麻生の盟友でもあり、密談に加わった甘利明行政改革担当相は4月21日の記者会見で、「麻生首相が国内外にメッセージを発信する環境が整ってきた。解散を焦る必要はないと思う」と、「5月解散論」を否定。首相側近として台頭著しい菅も4月20日の講演で「(2009年度補正予算を)しっかりと成立をさせ、王道を歩んだほうがいいと総理に申し上げた」ことを明らかにした。補正予算に加え、関連法も成立させた上で解散することが望ましいとの考えを示した発言で、菅も甘利と同じく「5月解散論」を否定的だ。

 麻生は4月27日、記者団に対し、衆院解散・総選挙の時期について「(税制)関連法案もあるし、ソマリアや年金の話など重要法案もある。これ(補正予算の成立)だけで、後はすべて終わりという状況ではない」と述べた。

 この発言は、2009年度補正予算と予算関連法に加え、海賊対処法や改正国民年金法など重要法案の成立前の衆院解散を否定したものと受け取られている。

 補正予算案と予算関連法案は、与党側のシナリオ通り5月中旬に衆院を通過したとしても、民主党は補正予算に反対しており、野党が多数を示す参院で採決を引き延ばされる可能性は大いにある。補正予算は衆院優越の憲法規定で6月中旬に成立したとしても、予算関連法を成立させるには、7月中旬まで待たなくてはならない。

 景気低迷が続く中、民主党がそこまで採決を引き延ばすとは考えにくいが、たとえ、補正予算案と関連法案の迅速な処理に合意したとしても、海賊対処法などを成立させるには、6月3日までの通常国会の会期内では困難だ。

 古賀誠選対委員長ら自民党内の一部には、5月解散を求める意見はあるが、麻生のこれらの発言から推測すると、麻生は5月解散に否定的だ。国会を延長して重要法案を仕上げて、7月のイタリアでのサミット後、景気対策と外交での成果を掲げて選挙に臨むという麻生の基本戦略は変わっていない。このことからも、選挙対策の実権はすでに、選対「委員長」の古賀から、「副委員長」の菅に移っていることも分かる。

 麻生は4月20日、自民党の細田博之幹事長、大島理森国会対策委員長らを首相官邸に呼び、2009年度補正予算案と税制改正関連法案など予算関連法案の早期成立を図るよう指示した。これも、5月解散に含みを残すというよりは、補正と関連法を早期に仕上げて、「景気の麻生」をアピールする狙いからなのは明らかだ。

 焦点は(1)7月12日の東京都議会議員選挙とのダブル選挙はあるのか(2)8月中旬のお盆前か後か(3)任期満了後の選挙はあるのか--だ。ただ、9月10日の任期満了まで、すでに4カ月しかなく、選挙期日の設定は限られ、いつ選挙があろうとも「誤差の範囲内」だ。

●3.5島返還論の背景

 前外務次官で政府代表を務める谷内正太郎が4月17日付の毎日新聞インタビューで、北方領土問題をめぐり「3.5島(返還)でもいいのではないか。北方4島を両国のつまずきの石にしない」と発言し、国内外に波紋を広げた。

 谷内は麻生が外相当時に外務次官を務めるなど麻生に近く、谷内発言の背景には、麻生の意向が働いているのではないかと受け止められたからだ。

 毎日新聞によると、谷内は1956年の日ソ共同宣言に基づく解決案としてロシア側が示している歯舞、色丹の2島返還を引き合いに、「2島では全体の7%に過ぎない。択捉島の面積が大きく、面積を折半すると、(歯舞、色丹、国後)3島プラス択捉島の20~25%ぐらいになる。実質は4島返還になる」と語ったという。

 政府はこの発言を「谷内氏の個人的見解」(河村官房長官)と火消しに走ったが、麻生自身も同様のことを発言したこともある。外相当時の2006年12月、衆院外務委員会で「択捉島の約25%を(国後、色丹、歯舞の)残り3党にくっつけると、(面積が)50(対)50の比率になる」と述べている。今回の谷内発言と全く同じ内容だ。

 3.5島返還論が、谷内の発想を麻生が代弁したものなのか、麻生の発想を谷内が代弁したものなのかは判然としないが、日本政府内で、北方領土問題解決の一つのアイディアとして存在することは間違いない。

 麻生は2月18日、サハリンを訪問し、ロシアのメドベージェフ大統領と会談した。会談後、麻生は記者団に、北方領土問題について「新たな、独創的で型にはまらないアプローチで、我々の世代で解決すべく、具体的な作業を加速しようということで一致した。4島の話は向こう(ロシア)が2、こっちが4ではまったく進展しない。日露間すべてに引っかかっている問題だ。政治が決断しなければいけない」と述べた。

 この「独創的アプローチ」が何を指すのかは分からないが、センテンスの後半「4島の話は向こう(ロシア)が2、こっちが4ではまったく進展しない」に、3.5島返還論がにじんでいるように見える。

 麻生が5月に来日するロシアのプーチン首相や、7月にイタリアで開かれる主要国首脳会議の際、メドベージェフ大統領との首脳会談で、面積2等分案を交渉カードに使うのではないか、との見方もあることにはあるが、4島返還を目指す日本側にとって大幅な譲歩であり、領土問題で譲歩案を示すには、麻生の政権基盤は脆弱すぎる。内閣支持率は一時の危機的な状況を脱しつつあるが、政治決断できる環境には至っていない。

 麻生自身は今回、4月23日の衆院海賊対処・テロ防止特別委員会で「北方4島の話は、帰属問題がはっきりしない限りは前に進まない。(谷内も)それを前提にしゃべっていると思う。ロシアとの平和条約締結は、4島の帰属問題を明らかにした上でどうするかという話にすべきだというのが、基本的な政府の考え方だ。このことは一貫して変わっていない」と述べるにとどめている。

 谷内発言が麻生と打ち合わせ済みの、北方領土問題の解決を目指すための「観測気球」だったとしたら、3.5島返還論への反発が依然、強いことが明らかになり、麻生が北方領土問題で譲歩案を提示するのは難しくなったといえる。逆に「観測気球」でなかったとしたら、谷内発言は軽率だったことになる。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009年4月27日 (月)

◆政局・外交レポート(7)◆2009年4月27日 

●小沢は辞めるのか

 4月26日に投開票された名古屋市長選で、民主党推薦の前衆院議員、河村たかしが当選した。3月29日の千葉県知事選、4月12日の秋田県知事選で推薦・支持候補の敗北が続いていた民主党にとっては、今回の市長選勝利を、小沢一郎代表の公設秘書が政治資金規正法違反で逮捕された西松建設による違法献金事件の悪影響からの脱却につなげたいところだろう。

 ただ、これで小沢が引き続き代表を務め、そのまま衆院選に突入することができると考えるのは早計だ。

 幹事長の鳩山由紀夫は4月26日夜、市長選勝利が小沢の進退問題に与える影響について「圧勝したということで、プラスの影響は当然ある」と記者団に語ったが、河村はこれまで民主党内で「一匹オオカミ」的な存在として知られ、今回の勝利も「河村の個人人気の結果」との見方が、党内でも大勢だ。

 小沢は今回の市長選で、名古屋市入りし、選挙事務所など激励に訪れたが、街頭演説に立つことはなかった。このことは小沢と河村との微妙な距離、小沢の今置かれている現状を暗示しているようにみえる。

 党内有力者の発言をみると、鳩山は表向き、小沢と一蓮托生の立場だが、小沢の後継者と目される代表経験者の岡田克也、同じく代表経験者の前原誠司は、小沢と距離を置く発言を繰り返している。

 岡田は4月25日、熊本市内での講演で「われわれは国民が納得するだけの努力を一生懸命考えている。もう少し時間をいただきたい。理解ができていないままで、政権交代ができないことは分かっている」と強調した。

 前原も4月24日、日本外国特派員協会での講演で「小沢代表の『党代表や首相の座に未練はない。最大のテーマは政権交代可能かどうかだ』との発言を私は固く信じている。客観的に党の状況を分析し、判断することが大事だ」と述べた。

 これらの発言に共通しているのは、世論の賛同が得られないなら、代表を辞任すべきだとの考えを強くにじませている点だ。

 その世論の動向はどうだろうか。

 産経新聞とフジテレビが4月25、26両日に行った合同世論調査によると、「小沢代表を辞任すべきだ」との回答は56.6%で、1カ月前の前回調査よりも5.7ポイント減ったものの、依然過半数を占めている。また「麻生太郎首相は退陣し、衆院選を行うべきだ」と答えたのは23.5%にとどまっているのに対し、「小沢代表が退陣し、新代表の下で衆院選に臨むべきだ」との回答は57.3%に上っている。

 その一週間前、朝日新聞が4月18、19両日に実施した全国世論調査でも、「小沢は代表を辞める方がよい」との意見は61%を占め、「続ける方がよい」は28%。 いずれの調査でも半数以上が、小沢の辞任を求めており、小沢の代表続投が国民の支持を得られていないことを示している。

 また、民主党内では、かつて小沢の秘書を務めた、側近の樋高剛前衆院議員が小沢ではなく非小沢系の蓮舫参院議員と並ぶポスターを作ったことも発覚するなど、小沢離れもじわじわと広がっている。

 当の小沢は4月21日の記者会見で、自らの進退について「民主党の組織としての総意はもう(続投と)決まり切っている。私は代表として総選挙に向けてみんなと一緒に全力で取り組む」と、続投への強い意欲を示した。

 ただ、小沢はこれまで政権交代に政治生命をかけると明言しており、自らが身を引くことで民主党の党勢が著しく回復するような状況になった場合には、潔く身を引く可能性もある。今は、じっとその時を見定めているのかもしれない。

 次期衆院選では小沢の続投が自民党に有利になると説いている小泉純一郎元首相は4月22日、小沢の進退について「衆院解散直後に代表を辞任する。代表選をやらずに後継指名するだろう。彼の性格からして代表辞任後も影響力を残そうとするのではないか」との見通しを示している。

●首相側近4人の密談

 4月23日夜、首相官邸の敷地内に2台の自動車が裏門から滑り込んでいった。乗っていたのは安倍晋三元首相と菅義偉自民党選対副委員長。公式には、麻生はこのとき、首相公邸で甘利明行政改革担当相と会っていたことになっており、新聞各社の首相動静欄に、安倍と菅の記録はない。麻生にとって、安倍、菅との会談は、公にはできない事情があったのだろう。

 麻生がなぜ、そこまで神経質になるのか。それは、この四人の密談が、衆院解散・総選挙の時期をめぐるものだったからに違いないと容易に推測できる。

 この会談の布石になったのが、官房長官の河村建夫が、衆院解散・総選挙の時期について「政権を一緒にやっている公明党だから、無視できないだろう」と述べた4月22日の講演だ。

 この発言は、公明党幹事長の北側一雄幹事長が4月20日、大阪市内での講演で、次期衆院選の時期について「4~6月期のGDP(国内総生産)が8月中ごろに出て、少しは経済の底打ち感が出てくるのではないか。多くの方々が底打ちを感じる時が一つのチャンスだ」と、8月中旬以降にすべきだと発言したことに呼応したものだ。

 公明党は、国政選挙並みに重視する東京都都議会議員選挙(7月12日投開票)と衆院選の時期を、少なくとも1カ月以上ずらすよう求めており、解散権者の麻生が公明党の意向を重視するなら、衆院選は6月7日以前か8月16日以降に絞られる。

 しかし、6月7日以前の衆院選は、民主党が2009年度補正予算の審議に全面的に協力して早期成立が可能になるか、民主党が補正予算審議に徹底抗戦して、成立しないまま解散に踏み切るしかできない。8月16日以降なら事実上の任期満了選挙だ。

 河村がなぜこの時期に、麻生の専権事項である衆院解散・総選挙の時期に踏み込んで発言したのかは分からない。

 しかし、安倍は麻生との密談で「補正成立後すぐの解散も視野に入れるべきだ」と、「5月解散論」を主張したという。事実上の任期満了選挙では、レームダックに陥る危険性があるとの認識からだろうが、河村発言に待ったをかける意味があったのかもしれない。

 麻生の盟友でもあり、密談に加わった甘利明行政改革担当相は4月21日の記者会見で、「麻生首相が国内外にメッセージを発信する環境が整ってきた。解散を焦る必要はないと思う」と、「5月解散論」を否定。

 首相側近として台頭著しい菅も4月20日の講演で「(2009年度補正予算を)しっかりと成立をさせ、王道を歩んだほうがいいと総理に申し上げた」ことを明らかにした。補正予算に加え、関連法も成立させた上で解散することが望ましいとの考えを示した発言で、菅も甘利と同じく「5月解散論」を否定的だ。

 麻生は4月20日、自民党の細田博之幹事長、大島理森国会対策委員長らを首相官邸に呼び、2009年度補正予算案と税制改正関連法案など予算関連法案の早期成立を図るよう指示したが、麻生が補正成立を衆院解散時期とどう結びつけようとしているのかは明らかではない。

 麻生は安倍にも態度を明らかにしなかったというが、雌雄を決する衆院選時期の「選択の幅」が、確実に狭まっていることだけは間違いない。

●3.5島返還論の背景

 前外務次官で政府代表を務める谷内正太郎が4月17日付の毎日新聞インタビューで、北方領土問題をめぐり「3.5島(返還)でもいいのではないか。北方4島を両国のつまずきの石にしない」と発言し、国内外に波紋を広げた。

 谷内は麻生が外相当時に外務次官を務めるなど麻生に近く、谷内発言の背景には、麻生の意向が働いているのではないかと受け止められたからだ。

 毎日新聞によると、谷内は1956年の日ソ共同宣言に基づく解決案としてロシア側が示している歯舞、色丹の2島返還を引き合いに、「2島では全体の7%に過ぎない。択捉島の面積が大きく、面積を折半すると、(歯舞、色丹、国後)3島プラス択捉島の20~25%ぐらいになる。実質は4島返還になる」と語ったという。

 政府はこの発言を「谷内氏の個人的見解」(河村官房長官)と火消しに走ったが、麻生自身も同様のことを発言したこともある。外相当時の2006年12月、衆院外務委員会で「択捉島の約25%を(国後、色丹、歯舞の)残り3党にくっつけると、(面積が)50(対)50の比率になる」と述べている。今回の谷内発言と全く同じ内容だ。

 3.5島返還論が、谷内の発想を麻生が代弁したものなのか、麻生の発想を谷内が代弁したものなのかは判然としないが、日本政府内で、北方領土問題解決の一つのアイディアとして存在することは間違いない。

 麻生は2月18日、サハリンを訪問し、ロシアのメドベージェフ大統領と会談した。会談後、麻生は記者団に、北方領土問題について「新たな、独創的で型にはまらないアプローチで、我々の世代で解決すべく、具体的な作業を加速しようということで一致した。4島の話は向こう(ロシア)が2、こっちが4ではまったく進展しない。日露間すべてに引っかかっている問題だ。政治が決断しなければいけない」と述べた。

 この「独創的アプローチ」が何を指すのかは分からないが、センテンスの後半「4島の話は向こう(ロシア)が2、こっちが4ではまったく進展しない」に、3.5島返還論がにじんでいるように見える。

 麻生が5月に来日するロシアのプーチン首相や、7月にイタリアで開かれる主要国首脳会議の際、メドベージェフ大統領との首脳会談で、面積2等分案を交渉カードに使うのではないか、との見方もあることにはあるが、4島返還を目指す日本側にとって大幅な譲歩であり、領土問題で譲歩案を示すには、麻生の政権基盤は脆弱すぎる。内閣支持率は一時の危機的な状況を脱しつつあるが、政治決断できる環境には至っていない。

 麻生自身は今回、4月23日の衆院海賊対処・テロ防止特別委員会で「北方4島の話は、帰属問題がはっきりしない限りは前に進まない。(谷内も)それを前提にしゃべっていると思う。ロシアとの平和条約締結は、4島の帰属問題を明らかにした上でどうするかという話にすべきだというのが、基本的な政府の考え方だ。このことは一貫して変わっていない」と述べるにとどめている。

 谷内発言が麻生と打ち合わせ済みの、北方領土問題の解決を目指すための「観測気球」だったとしたら、3.5島返還論への反発が依然、強いことが明らかになり、麻生が北方領土問題で譲歩案を提示するのは難しくなったといえる。逆に「観測気球」でなかったとしたら、谷内発言は軽率だったことになる。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2009年4月 2日 (木)

◆政局・外交レポート(6)◆2009年3月31日 

●小沢代表の進退、焦点に

 小沢一郎民主党代表の進退問題が、当面の政局の最大の焦点になっている。

 ことの発端は、小沢の公設第一秘書が政治資金規正法違反の罪で逮捕・起訴された西松建設による巨額献金事件。小沢は秘書が起訴された3月24日、緊急役員会と常任幹事会で、贈収賄などの新しい事実が明らかにされなかったとして当面続投する考えを表明し、了承された。

 ただ、小沢の続投が次期衆院選に影響するとして、民主党内からも異論が出ている。24日の常任幹事会では、前原誠司副代表が「すんなり了と言うわけにはいかない」と指摘したほか、小宮山洋子衆院議員も24日夜、記者団に「政権交代を実現して日本を良くするため、代表は辞任すべきだ。謝りながら、言い訳しながらの選挙では勝てない。小沢氏が検察と戦うのは自身の問題で、小沢氏の裁判闘争と政権を取るための民主党の戦略は別だ」と語った。

 小沢の続投に対しては、世論も反発を示している。

 共同通信社が25、26両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、小沢の続投表明に対し、「代表を辞めるべきだ」との回答が66.6%に上り、「代表を続けてよい」の28.9%を大きく上回った。事件に関する小沢の説明を「納得できなかった」との答えも79.7%に上り、「納得できた」は12.0%にとどまっている。

 一方、麻生内閣の支持率は23.7%で、3月7、8両日実施の前回調査から7.7ポイント増加し、不支持率は63.5%と7.3ポイント減少。麻生太郎首相と小沢の「どちらが首相にふさわしいと思うか」との質問でも麻生が前回比7.5ポイント増の33.1%、小沢が同2.4ポイント減の31.2%と逆転した。

 報道各社が行った世論調査でも同様の傾向が出ており、小沢がこのまま代表にとどまれば、政権交代確実とみられていた次期衆院選で、苦戦を強いられるのは避けられない情勢となっている。

 そうした、民主党にとって厳しい情勢の一端が、3月29日に投開票され、小沢の秘書起訴後、初の大型選挙となった千葉県知事選で明らかになった。民主党など野党が推薦する第三セクター鉄道会社の前社長吉田平(49)候補が、自民党県議会議員らの支援を受けた元自民党衆院議員の森田健作(59)に敗れたからだ。

 小沢は投開票前日の28日、吉田応援のため千葉県入りして、てこ入れしたにもかかわらず、40万票近い票差をつけられてしまった。選挙に強いとされてきた小沢の求心力は、西松巨額献金事件とともに陰り始めたことは否めない。

 小沢はこれまで、地方の首長選でも独自候補を擁立し、自民党と対決する選挙戦略を主導してきており、秋田県知事選(4月12日投開票)など、今後の地方選挙で敗北が続くようだと、党内から代表交代論が噴出し、小沢が代表辞任を決断せざるを得ない状況に追い込まれる可能性は十分ある。

 一方、小沢の立場からみれば、自らの秘書が関係する事件で、民主党に勢いがなくなる中、自らの辞任は、民主党を再び浮上させる要素にもなる。このため、小沢自身が、自らの辞任時期を慎重に見極めているとの見方もできる。

●5月解散論、自民内で浮上

 こうした民主党の混乱を受け、自民党内では「5月衆院解散・総選挙論」が浮上している。

 これまで解散時期への具体的言及を避けてきた自民党の古賀誠選挙対策委員長は26日、古賀派の総会で「5月は緊張しなければいけない時になる。追加の景気回復(対策を盛り込む2009年度補正予算案)の国会提出時期と成立させるタイミングは、今度の政局の最大のヤマ場になる」と述べた。

 また、細田博之幹事長も29日、NHKテレビの日曜討論で「5月解散論」について「与野党が早急に協議をして済ませればいろいろ余地が出てくるのではないか」と、可能性を否定しなかった。

 こうした発言の背景にあるのが、民主党が小沢の進退問題でもたつき、麻生内閣の支持率が持ち直している今こそ、解散の好機との判断だ。

 ただ、麻生自身は5月解散に否定的とみられる。その理由の一つが、麻生が7月上旬にイタリアで開かれるマッダレーナ・サミットへの出席を熱望している、とされていることだ。

 民主党がいくら小沢の進退問題で混乱しているとはいえ、次期衆院選で自民党が必ず勝てるとの確信はない。万が一、自民党がサミット前の解散・総選挙で敗北すれば、麻生のサミット出席は泡と消える。麻生にとって、そんな危険を冒してまで、5月に解散する必要はないからだ。

 さらに、5月解散の前提となっているのが、2009年度補正予算の早期成立。これには民主党の協力が不可欠だが、民主党が自分たちが負ける可能性のある5月解散のために協力するとは考えにくい。民主党がずるずると審議を引き延ばせば、5月解散は困難になり、7月の東京都議会議員選挙に近づく。公明党は次期衆院選と都議選の時期が近づくことを嫌がっており、麻生は結局、解散できなくなってしまう。

 また、5月解散の可能性が濃厚になれば、民主党内で次期衆院選への危機感から小沢降ろしの動きが一気に加速するかもしれない。もし、小沢が代表辞任を決断し、新しい代表の下で次期衆院選を戦うことになれば、民主党が議席を伸ばし、政権交代の可能性がより高くなる。

 つまり、5月解散論が声高に叫ばれるほど、その実現の可能性が低まるというジレンマになっている。

 結局、衆院解散・総選挙の時期は、サミット後から任期満了の9月10日までの間に行われる可能性が高い状況は、依然変わっていないとみるのが妥当だろう。

●ミサイル防衛の成否は

 外交面で喫緊の課題となっているのが、北朝鮮が人工衛星名目で4月4―8日の間に発射を予告している長距離弾道ミサイルへの対応だ。

 北朝鮮側の予告によると、このミサイルは秋田県の西方沖約130~380キロの日本海に1段目を落下させ、その後、東北地方北部上空を通過する。

 このため政府は3月27日、ミサイルが日本領土・領海に落下した場合に迎撃する「破壊措置命令」を初めて発令し、陸上自衛隊新屋(あらや)演習場(秋田県)、同岩手山演習場(岩手県)、首都圏の市ケ谷駐屯地(東京都新宿区)、朝霞(埼玉県)、習志野(千葉県)両駐屯地など全国5カ所に地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)を配備、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載した海上自衛隊のイージス艦「こんごう」と「ちょうかい」を日本海に展開した。

 また、米軍も米イージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」「チェフィー」を日本海に展開している。日米のイージス艦同士は「データリンク」で結ばれてデータを共有しており、米軍と自衛隊が連携してミサイルの発射を探知、飛行ルートを追跡するとみられる。

 では、実際に迎撃ミサイルは発射されるのだろうか。答えは「否」だろう。

 その理由の一つは、北朝鮮がミサイル発射を人工衛星打ち上げと主張、事前の通告も行っていることから、それを打ち落とせば深刻な外交問題に発展しかねないからだ。

 米国はイージス艦を展開しているものの、迎撃には慎重な姿勢を見せている。 ゲーツ米国防長官は29日、FOXテレビの番組で「もしハワイに向かってくるようなら迎撃も考慮するが、現時点でわれわれにはその計画はない」と語った。これは米政府が衛星写真などから、発射されるミサイルが米国を射程に含むものではないと見切り、ことさらに緊張を高める必要はないと判断しているものとみられる。

 第2の理由は、超高速で落下してくるミサイルを打ち落とすことは、実験では一部成功しているとはいえ、極めて困難だからだ。日本政府はこれまでミサイル防衛に約7千億円を投じており、迎撃が失敗すれば、ミサイル防衛を進めてきた政府への批判が高まる。

 そもそも、専門家の間では、日本の領土にミサイルが落下する可能性は低いとみられている。にもかかわらず、政府・防衛省がミサイル迎撃態勢をとり、本来、防衛秘であるはずのPAC3配備場所まで公開しているのは、北朝鮮へのけん制と同時に、日本国民に対してミサイル防衛をアピールする狙いもあるとみられる。

●「自由と繁栄の弧」復活

 麻生首相は3月25日夜、ウクライナのティモシェンコ首相と会談し、今後の協力強化と方向性を確認する共同声明を発表した。

 この会談の重要な点は、麻生首相がウクライナの民主化と市場経済化の努力を支援する方針を伝えたのに対し、ティモシェンコ首相が麻生首相が提唱してきた「自由と繁栄の弧」を高く評価したことだろう。

 自由と繁栄の弧は、2006年11月、安倍内閣の外相だった麻生が講演で提唱した外交政策で、ブッシュ米前政権のネオコン勢力が進めた「価値観外交」と軌を一にしている。
「弧」にあたるのは「北欧諸国から始まって、バルト諸国、中・東欧、中央アジア・コーカサス、中東、インド亜大陸、さらに東南アジアを通って北東アジアにつながる地域」。

 この地域への経済協力などを通じ、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済などの「普遍的価値」を根付かせて政治・経済を安定させ、テロの温床を無くして平和を構築しようとする試みだ。

 麻生はこの際、特にインドとの関係を強化し、貿易・投資や政府開発援助の拡大政策などを行った。これは明らかに中国を意識したものであり、ウクライナへの協力は、ロシアに対するけん制でもある。自由と繁栄の弧は、中ロけん制、もしくは中ロ封じ込めと同義語だ。

 この「自由と繁栄の弧」は当時外務事務次官であった谷内正太郎を中心に企画・立案されたとされる。

 2007年9月に安倍首相が退陣し、後継の福田内閣が中韓両国を中心とするアジア外交に軸足を移したことに加え、2008年1月に谷内が退任したことで、「自由と繁栄の弧」政策は一時期、後退した。

 しかし、2008年9月に麻生自身が首相に就任し、2009年1月には谷内を政府代表に起用した。政府代表は外務公務員法に規定された特別公務員で、政府を代表して外国政府と交渉する権限がある。これまでも経緯から推測しても、麻生は外相の中曽根弘文よりも、谷内を信頼しているとみていい。

 麻生内閣がいつまで続くかは分からないが、当面は麻生-谷内ラインの「価値観外交」に基づく外交政策が進められることになる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »