◆政局・外交レポート(6)◆2009年3月31日
●小沢代表の進退、焦点に
小沢一郎民主党代表の進退問題が、当面の政局の最大の焦点になっている。
ことの発端は、小沢の公設第一秘書が政治資金規正法違反の罪で逮捕・起訴された西松建設による巨額献金事件。小沢は秘書が起訴された3月24日、緊急役員会と常任幹事会で、贈収賄などの新しい事実が明らかにされなかったとして当面続投する考えを表明し、了承された。
ただ、小沢の続投が次期衆院選に影響するとして、民主党内からも異論が出ている。24日の常任幹事会では、前原誠司副代表が「すんなり了と言うわけにはいかない」と指摘したほか、小宮山洋子衆院議員も24日夜、記者団に「政権交代を実現して日本を良くするため、代表は辞任すべきだ。謝りながら、言い訳しながらの選挙では勝てない。小沢氏が検察と戦うのは自身の問題で、小沢氏の裁判闘争と政権を取るための民主党の戦略は別だ」と語った。
小沢の続投に対しては、世論も反発を示している。
共同通信社が25、26両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、小沢の続投表明に対し、「代表を辞めるべきだ」との回答が66.6%に上り、「代表を続けてよい」の28.9%を大きく上回った。事件に関する小沢の説明を「納得できなかった」との答えも79.7%に上り、「納得できた」は12.0%にとどまっている。
一方、麻生内閣の支持率は23.7%で、3月7、8両日実施の前回調査から7.7ポイント増加し、不支持率は63.5%と7.3ポイント減少。麻生太郎首相と小沢の「どちらが首相にふさわしいと思うか」との質問でも麻生が前回比7.5ポイント増の33.1%、小沢が同2.4ポイント減の31.2%と逆転した。
報道各社が行った世論調査でも同様の傾向が出ており、小沢がこのまま代表にとどまれば、政権交代確実とみられていた次期衆院選で、苦戦を強いられるのは避けられない情勢となっている。
そうした、民主党にとって厳しい情勢の一端が、3月29日に投開票され、小沢の秘書起訴後、初の大型選挙となった千葉県知事選で明らかになった。民主党など野党が推薦する第三セクター鉄道会社の前社長吉田平(49)候補が、自民党県議会議員らの支援を受けた元自民党衆院議員の森田健作(59)に敗れたからだ。
小沢は投開票前日の28日、吉田応援のため千葉県入りして、てこ入れしたにもかかわらず、40万票近い票差をつけられてしまった。選挙に強いとされてきた小沢の求心力は、西松巨額献金事件とともに陰り始めたことは否めない。
小沢はこれまで、地方の首長選でも独自候補を擁立し、自民党と対決する選挙戦略を主導してきており、秋田県知事選(4月12日投開票)など、今後の地方選挙で敗北が続くようだと、党内から代表交代論が噴出し、小沢が代表辞任を決断せざるを得ない状況に追い込まれる可能性は十分ある。
一方、小沢の立場からみれば、自らの秘書が関係する事件で、民主党に勢いがなくなる中、自らの辞任は、民主党を再び浮上させる要素にもなる。このため、小沢自身が、自らの辞任時期を慎重に見極めているとの見方もできる。
●5月解散論、自民内で浮上
こうした民主党の混乱を受け、自民党内では「5月衆院解散・総選挙論」が浮上している。
これまで解散時期への具体的言及を避けてきた自民党の古賀誠選挙対策委員長は26日、古賀派の総会で「5月は緊張しなければいけない時になる。追加の景気回復(対策を盛り込む2009年度補正予算案)の国会提出時期と成立させるタイミングは、今度の政局の最大のヤマ場になる」と述べた。
また、細田博之幹事長も29日、NHKテレビの日曜討論で「5月解散論」について「与野党が早急に協議をして済ませればいろいろ余地が出てくるのではないか」と、可能性を否定しなかった。
こうした発言の背景にあるのが、民主党が小沢の進退問題でもたつき、麻生内閣の支持率が持ち直している今こそ、解散の好機との判断だ。
ただ、麻生自身は5月解散に否定的とみられる。その理由の一つが、麻生が7月上旬にイタリアで開かれるマッダレーナ・サミットへの出席を熱望している、とされていることだ。
民主党がいくら小沢の進退問題で混乱しているとはいえ、次期衆院選で自民党が必ず勝てるとの確信はない。万が一、自民党がサミット前の解散・総選挙で敗北すれば、麻生のサミット出席は泡と消える。麻生にとって、そんな危険を冒してまで、5月に解散する必要はないからだ。
さらに、5月解散の前提となっているのが、2009年度補正予算の早期成立。これには民主党の協力が不可欠だが、民主党が自分たちが負ける可能性のある5月解散のために協力するとは考えにくい。民主党がずるずると審議を引き延ばせば、5月解散は困難になり、7月の東京都議会議員選挙に近づく。公明党は次期衆院選と都議選の時期が近づくことを嫌がっており、麻生は結局、解散できなくなってしまう。
また、5月解散の可能性が濃厚になれば、民主党内で次期衆院選への危機感から小沢降ろしの動きが一気に加速するかもしれない。もし、小沢が代表辞任を決断し、新しい代表の下で次期衆院選を戦うことになれば、民主党が議席を伸ばし、政権交代の可能性がより高くなる。
つまり、5月解散論が声高に叫ばれるほど、その実現の可能性が低まるというジレンマになっている。
結局、衆院解散・総選挙の時期は、サミット後から任期満了の9月10日までの間に行われる可能性が高い状況は、依然変わっていないとみるのが妥当だろう。
●ミサイル防衛の成否は
外交面で喫緊の課題となっているのが、北朝鮮が人工衛星名目で4月4―8日の間に発射を予告している長距離弾道ミサイルへの対応だ。
北朝鮮側の予告によると、このミサイルは秋田県の西方沖約130~380キロの日本海に1段目を落下させ、その後、東北地方北部上空を通過する。
このため政府は3月27日、ミサイルが日本領土・領海に落下した場合に迎撃する「破壊措置命令」を初めて発令し、陸上自衛隊新屋(あらや)演習場(秋田県)、同岩手山演習場(岩手県)、首都圏の市ケ谷駐屯地(東京都新宿区)、朝霞(埼玉県)、習志野(千葉県)両駐屯地など全国5カ所に地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)を配備、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載した海上自衛隊のイージス艦「こんごう」と「ちょうかい」を日本海に展開した。
また、米軍も米イージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」「チェフィー」を日本海に展開している。日米のイージス艦同士は「データリンク」で結ばれてデータを共有しており、米軍と自衛隊が連携してミサイルの発射を探知、飛行ルートを追跡するとみられる。
では、実際に迎撃ミサイルは発射されるのだろうか。答えは「否」だろう。
その理由の一つは、北朝鮮がミサイル発射を人工衛星打ち上げと主張、事前の通告も行っていることから、それを打ち落とせば深刻な外交問題に発展しかねないからだ。
米国はイージス艦を展開しているものの、迎撃には慎重な姿勢を見せている。 ゲーツ米国防長官は29日、FOXテレビの番組で「もしハワイに向かってくるようなら迎撃も考慮するが、現時点でわれわれにはその計画はない」と語った。これは米政府が衛星写真などから、発射されるミサイルが米国を射程に含むものではないと見切り、ことさらに緊張を高める必要はないと判断しているものとみられる。
第2の理由は、超高速で落下してくるミサイルを打ち落とすことは、実験では一部成功しているとはいえ、極めて困難だからだ。日本政府はこれまでミサイル防衛に約7千億円を投じており、迎撃が失敗すれば、ミサイル防衛を進めてきた政府への批判が高まる。
そもそも、専門家の間では、日本の領土にミサイルが落下する可能性は低いとみられている。にもかかわらず、政府・防衛省がミサイル迎撃態勢をとり、本来、防衛秘であるはずのPAC3配備場所まで公開しているのは、北朝鮮へのけん制と同時に、日本国民に対してミサイル防衛をアピールする狙いもあるとみられる。
●「自由と繁栄の弧」復活
麻生首相は3月25日夜、ウクライナのティモシェンコ首相と会談し、今後の協力強化と方向性を確認する共同声明を発表した。
この会談の重要な点は、麻生首相がウクライナの民主化と市場経済化の努力を支援する方針を伝えたのに対し、ティモシェンコ首相が麻生首相が提唱してきた「自由と繁栄の弧」を高く評価したことだろう。
自由と繁栄の弧は、2006年11月、安倍内閣の外相だった麻生が講演で提唱した外交政策で、ブッシュ米前政権のネオコン勢力が進めた「価値観外交」と軌を一にしている。
「弧」にあたるのは「北欧諸国から始まって、バルト諸国、中・東欧、中央アジア・コーカサス、中東、インド亜大陸、さらに東南アジアを通って北東アジアにつながる地域」。
この地域への経済協力などを通じ、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済などの「普遍的価値」を根付かせて政治・経済を安定させ、テロの温床を無くして平和を構築しようとする試みだ。
麻生はこの際、特にインドとの関係を強化し、貿易・投資や政府開発援助の拡大政策などを行った。これは明らかに中国を意識したものであり、ウクライナへの協力は、ロシアに対するけん制でもある。自由と繁栄の弧は、中ロけん制、もしくは中ロ封じ込めと同義語だ。
この「自由と繁栄の弧」は当時外務事務次官であった谷内正太郎を中心に企画・立案されたとされる。
2007年9月に安倍首相が退陣し、後継の福田内閣が中韓両国を中心とするアジア外交に軸足を移したことに加え、2008年1月に谷内が退任したことで、「自由と繁栄の弧」政策は一時期、後退した。
しかし、2008年9月に麻生自身が首相に就任し、2009年1月には谷内を政府代表に起用した。政府代表は外務公務員法に規定された特別公務員で、政府を代表して外国政府と交渉する権限がある。これまでも経緯から推測しても、麻生は外相の中曽根弘文よりも、谷内を信頼しているとみていい。
麻生内閣がいつまで続くかは分からないが、当面は麻生-谷内ラインの「価値観外交」に基づく外交政策が進められることになる。
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