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2009年3月 3日 (火)

◆政局・外交レポート(5)◆2009年3月3日

政局の材料にされる日本外交

 麻生太郎首相が積極的な外交を展開している。2月18日にサハリンを日帰りで訪れ、メドベージェフ・ロシア大統領と会談。24日にはワシントンを訪問し、オバマ政権下でホワイトハウスに招かれる初めての外国首脳として、オバマ米大統領と初の日米首脳会談を行った。

 首相は、4月2日にロンドンで開かれる第2回金融サミット、4月にタイで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス日中韓首脳会議への出席を予定しているほか、5月に訪日するプーチン・ロシア首相のホスト役にも意欲を示している。中国訪問にも意欲的で、政府部内では金融サミット前の訪中も検討されている。

 麻生首相が外交日程を詰め込んでいるのは、内政での失点を外交で挽回しようという思惑以外に、外交日程を詰め込むことで、徐々に激しくなっている「麻生降ろし」の動きを封じる目的もある。国際会議や外国訪問を盾にして、反麻生の動きに対して「国益を損なう」と反論することができるからだ。

当事者能力を失う麻生政権

 ただ、外国政府側は麻生首相を、日本の首相として引き続き重要なパートナーであり続けるとは見ていないようだ。その理由は、内閣支持率の続落で政権交代の可能性が高まっており、政権の当事者能力を失いつつあるためだ。

 その具体例が、麻生首相の訪米だ。急きょ決まった、国会日程の合間を縫っての訪問ではあったが、現地滞在約24時間、共同文書は作成されず、昼食会や夕食会はもちろん記者会見も行われなかった。このことは、オバマ政権が発足間もないとはいえ、初訪米でキャンプ・デービッドに招待された小泉元首相とは、米政権側が日本の首相に抱く期待度の差が如実に現れている。

 高い内閣支持率を武器に首脳外交に臨み、ブッシュ前米大統領と蜜月関係を結んだ小泉純一郎元首相はモスクワでの記者会見で「外交において、その国の政治基盤が安定していることは大変重要だ。日本国内の政局混乱を一日も早く正すことが重要な課題だ」と述べたという(2009年2月19日付読売新聞朝刊)が、その指摘が麻生内閣の現状を指していることは衆目の一致するところだ。

 就任直後の米大統領に会うために訪米した首相は短命でもある。過去3代の大統領は就任3カ月以内に日米首脳会談に応じてきたが、日本の首相はいずれも会談後4カ月以内に退陣を余儀なくされている。

 例えば、1989年2月2日、就任2週間後のブッシュ大統領(父)と会談した竹下登首相は消費税導入やリクルート事件で激しい批判を浴びて4カ月後の6月に内閣総辞職。 93年4月16日に就任から3カ月足らずのクリントン大統領と会談した宮沢喜一首相はこの年7月、衆院選での自民党過半数割れで退陣し、非自民の細川護煕政権が誕生した。2001年3月19日、ブッシュ大統領(子)と会談した森喜朗首相は既に自民党総裁選前倒しを提案して事実上の退陣表明をしており、4月に小泉内閣が発足している。

 これは日米首脳会談を政権浮揚に利用しようとしても、外交は内閣支持率の上昇にはつながらず、結局は追い込まれることを如実に現している。

注目浴びる小沢発言

 麻生内閣が国政、外交ともに当事者能力を失う一方で、注目を集めているのが民主党の小沢一郎代表の言動だ。小沢氏はこれまで、麻生内閣を早期の衆院解散に追い込んで総選挙での政権交代を目指すため、全国を行脚し、選挙に向けた活動に重点を置いてきたが、麻生内閣のレームダック化が鮮明になるにつれ、外交活動にも力を入れ始めた。というよりも、外国政府側が日本の政権交代をにらんで、民主党中心の政権誕生時に首相に就任するとみられる小沢氏とのパイプづくりを急いでいると見た方がいいだろう。

 主なものだけでも、小沢氏は2月17日に来日したヒラリー・クリントン米国務長官、2月23日には中国の王家瑞・中国共産党対外連絡部長(中連部長)と会談した。

 野党党首と国務長官との初めての個別会談となったクリントン-小沢会談は、米国側の打診によるものだ。当初、小沢氏は地方出張を理由に会談を断っていたが、周囲の説得に応じた。王部長との会談は、麻生首相との会談よりも長い1時間15分にわたったという。

 各国から民主党幹部と会談したいとの要請が増えたのは昨年12月からで、実現した会談は12月以降30件を数えるという(2009年2月25日付朝日新聞朝刊)。

 そうした状況下で飛び出したのが、小沢氏の「第七艦隊」発言。その発言要旨は以下の通り(2009年3月1日時事通信配信)だ。

 「米国の言う通り唯々諾々と従うのではなく、きちんとした世界戦略を持ち、どんな役割を果たしていくか。少なくとも日本に関連する事柄についてはもっと日本が役割を果たすべきだ。そうすれば米国の役割は減る。今の時代、前線に部隊を置いておく意味が米国にもない。軍事戦略的に言うと第7艦隊がいるから、それで米国の極東におけるプレゼンスは十分だ。あとは日本が極東での役割を担っていくことで話がつく」(2月24日、奈良県香芝市内で記者団に)

 「安全保障の面で日本が役割を負担していけば、米軍の役割はそれだけ少なくなる。米軍におんぶにだっこだから、米国の言うことを唯々諾々と聞くことになっている。自分たちにかかわることはなるべく自分たちできちんとやるという決意を持てば、そんなに米軍は出動部隊を日本という前線に置いている必要はない。ただ、東南アジアは非常に不安定要因が大きいので、米国のプレゼンスは必要だ。それはおおむね第7艦隊の存在で十分じゃないか」(2月25日、大阪市内で記者団に)

 この発言について、小沢氏自身は2月27日、横浜市での記者会見で「わたしは単に自衛隊ができることをやり、米国の負担が軽くなれば、それだけ在日米軍も少なくて済むという、ごくごく当たり前の話をしただけだ」と真意を説明した。

 この発言の核心は「対等な日米関係」だ。小沢氏には自民党幹事長当時の1991年、湾岸戦争を受けて多国籍軍に90億ドル(1兆2000億円)の支援を主導したが、結局、当事国に感謝されなかったというトラウマがある。

 これ以降、小沢氏は日本の主体的な外交・防衛政策を主張するようになり、その一つの到達点が「対等な日米関係」であり、1993年に出版した「日本改造計画」で提唱した「普通の国」なのだ。

 ただ、仮に日本に駐留する米陸空軍や海兵隊が撤退することになれば、日本の安全保障だけでなく、アジア・太平洋地域の軍事バランスにも大きな影響が生じる。代わりに自衛隊増強を目指すのかどうかなど、小沢氏は全体像を明らかにしておらず、政府・与党からは「防衛に知識がある人はそういう発言はしない」(麻生首相、2月26日記者団に)などと民主党の政権担当能力を疑問視する意見が続出しており、民主党内でも小沢氏の説明不足を指摘する声が出ている。

 また、次期衆院選で民主党が勝利すれば、連立政権に参加すると見られる社民党は「(在日米軍撤退の)あとは日本でやるということなら、意味が違ってくる」(福島瑞穂党首)と受け止めており、小沢氏の「第七艦隊」発言が今後、連立協議の障害になる可能性は捨てきれない。

 もちろん、小沢氏の「第七艦隊」発言は、日本の外交当局、米政府にとっても懸念材料だ。小沢氏の「対等な日米関係」という言葉は、1993年に非自民連立政権の首相となった細川護煕首相が提唱した「成熟した大人の日米関係」に通じる。細川首相のこの姿勢は当時、日米包括経済協議をこじらせ、クリントン政権のその後の「日本離れ」の布石となったからだ。

 このため、民主党幹部は小沢発言の沈静化に躍起となっているが、小沢発言は図らずも、民主党が依然、安全保障政策で定見を持たない未熟な政党にとどまっているという印象を与えてしまった。

米中関係の深化に警戒感

 日中両国と台湾が領有権を主張する尖閣諸島をめぐり、日本政府は米中接近への警戒感を強めている。

 この尖閣諸島の領有権問題に関連し、麻生首相は2月26日の衆院予算委員会で、尖閣諸島に第三国が侵攻してきた場合について「尖閣は日本固有の領土である以上、日米安全保障条約の対象だ」と述べた。麻生首相が言及した尖閣諸島をめぐる日本政府の見解は従来と何ら変わることはない。

 これに対し、中国の楊潔チ外相は2月28日、就任後初めて中国を訪問した中曽根弘文外相との会談で、麻生首相の尖閣諸島をめぐる発言を念頭に、言動を慎重にするよう求め、両外相は「日中関係全般に影を差すべきではない」との認識で一致した。

 1960年に改定された新安保条約第5条は、日本の施政下にある領域への攻撃は、日米双方の平和と安全を危うくするものと認め、「共通の危険」に対処するよう行動することを定めている。

 尖閣諸島が日米安保の対象かどうかについて、ブッシュ前政権は2004年、尖閣諸島の魚釣島(沖縄県石垣市)に上陸した中国人活動家七人が逮捕された際、「1972年、沖縄の日本復帰の一部として返還されて以来、日本の施政下にあり、日米安全保障条約の第五条が適用される」(エアリー米国務省副報道官、2004年3月24日の記者会見)と、日米安保条約に基づいて尖閣諸島への攻撃は米国への攻撃とみなし、集団的自衛権を発動して反撃するとの見解を示しており、日本政府はこうした見解が米国の政権交代によっても変わらないことを期待している。

 しかし、オバマ民主党政権になり、日本政府がこうした見解を確認するよう求めているものの、米政府側は確認を避けているという(2009年2月27日付読売新聞朝刊)。ブッシュ共和党政権以前のクリントン民主党政権下でも、米政府は確認を避け続けた経緯があり、日本政府は、オバマ政権が今後、クリントン政権同様、中国に近いスタンスをとるのではないかと警戒しているのだ。

 日本政府にとって重要なのは、米国が尖閣諸島における日本の実効支配を認め、日米安保条約の対象とし続けることである。そのことが何よりも中国に対するけん制になるからであり、日本政府は米国に対し、機会あるごとに尖閣諸島が日米安保条約の対象となることの確認を米政府に求め続けるであろう。

 中国は今年から通常型空母2隻の建造を計画しているのに続き、2020年以降、同国として始めてとなる原子力空母2隻の建造を計画している、という(2009年2月13日付朝日新聞朝刊)。

 また、中国海軍の攻撃型潜水艦が2008年、過去最多の計12回の哨戒活動を実施していたことが分かった(2009年2月5日共同通信配信)。

 これら海軍力の増強、海軍活動の活発化はいずれも、中国の外洋進出の意図をうかがわせている。

 こうした動きに対し、米海軍が、潜水艦からの攻撃を想定した日米共同訓練(対潜特別訓練)を重視し、米本土から空母を派遣するケースが増えてきた(2009年2月26日付朝日新聞ウエッブ)。

 オバマ政権としても、いつまでも尖閣諸島を日米安保条約の対象か否か、曖昧にし続けることはできないだろう。中国の経済発展、外洋進出の意図はクリントン政権の時のそれとは全く異なるからである。

●3島返還論は消えていないのか

 麻生首相は2月18日、サハリンを訪問し、ロシアのメドベージェフ大統領と会談した。会談後、麻生首相は記者団に、北方領土問題について「新たな、独創的で型にはまらないアプローチで、我々の世代で解決すべく、具体的な作業を加速しようということで一致した。4島の話は向こう(ロシア)が2、こっちが4ではまったく進展しない。日露間すべてに引っかかっている問題だ。政治が決断しなければいけない」と述べた。

 麻生首相の「独創的アプローチ」が何を指すのかは分からない。しかし、それを読み解くヒントが、センテンスの後半「4島の話は向こう(ロシア)が2、こっちが4ではまったく進展しない」にある。(4+2)÷2。面積二分論、また3島(+α)返還論だ。

 麻生首相は外相当時、3島返還論に言及したことがある。2006年12月、衆院外務委員会で「択捉島の約25%を(国後、色丹、歯舞の)残り3党にくっつけると、(面積が)50(対)50の比率になる」と述べている。

 しかし、3島返還論が有力な解決策になり得たとしても、日本の国内世論的には、4島返還論から転換するに至っていない。かつて2島先行返還論を唱えた鈴木宗男衆院議員は失脚させられた。

 麻生首相であれ、首相が誰にせよ、3島返還で決着しようとしたら、世論の猛反発を買う。だからこそ、麻生首相は外相時代には3島返還論に言及できたとしても、より責任の重い首相としては言い出せる状況にはない。

 領土交渉を解決するには、強力な政治指導力が求められる。どんな形で決着するにせよ、国内の反対論を押さえ込むだけの政権基盤が必要だ。今の麻生政権にはそれだけの力量がなく、領土問題解決の道筋をつけられるような状況ではない。

 外交問題はつとめて内政問題である。北方領土問題は日ロともに、国内に強硬な世論を抱え、少なくとも日本側で支持基盤の弱い政権が続くうちは、解決は極めて難しいだろう。

※このレポートは、小沢一郎民主党代表の公設第一秘書が政治資金規正法違反で逮捕される以前に脱稿したものです。

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